0001 .. raw:: latex
0002
0003 \kerneldocCJKoff
0004
0005 NOTE:
0006 This is a version of Documentation/process/howto.rst translated into Japanese.
0007 This document is maintained by Tsugikazu Shibata <tshibata@ab.jp.nec.com>
0008 If you find any difference between this document and the original file or
0009 a problem with the translation, please contact the maintainer of this file.
0010
0011 Please also note that the purpose of this file is to be easier to
0012 read for non English (read: Japanese) speakers and is not intended as
0013 a fork. So if you have any comments or updates for this file, please
0014 try to update the original English file first.
0015
0016 ----------------------------------
0017
0018 .. raw:: latex
0019
0020 \kerneldocCJKon
0021
0022 この文書は、
0023 Documentation/process/howto.rst
0024 の和訳です。
0025
0026 翻訳者: Tsugikazu Shibata <tshibata@ab.jp.nec.com>
0027
0028 ----------------------------------
0029
0030 Linux カーネル開発のやり方
0031 ==========================
0032
0033 これは上のトピック( Linux カーネル開発のやり方)の重要な事柄を網羅した
0034 ドキュメントです。ここには Linux カーネル開発者になるための方法とLinux
0035 カーネル開発コミュニティと共に活動するやり方を学ぶ方法が含まれています。
0036 カーネルプログラミングに関する技術的な項目に関することは何も含めないよ
0037 うにしていますが、カーネル開発者となるための正しい方向に向かう手助けに
0038 なります。
0039
0040 もし、このドキュメントのどこかが古くなっていた場合には、このドキュメント
0041 の最後にリストしたメンテナにパッチを送ってください。
0042
0043 はじめに
0044 ---------
0045
0046 あなたは Linux カーネルの開発者になる方法を学びたいのでしょうか? そ
0047 れとも上司から「このデバイスの Linux ドライバを書くように」と言われた
0048 のかもしれません。この文書の目的は、あなたが踏むべき手順と、コミュニティ
0049 と一緒にうまく働くヒントを書き下すことで、あなたが知るべき全てのことを
0050 教えることです。また、このコミュニティがなぜ今うまくまわっているのかと
0051 いう理由も説明しようと試みています。
0052
0053 カーネルは少量のアーキテクチャ依存部分がアセンブリ言語で書かれている以
0054 外の大部分は C 言語で書かれています。C言語をよく理解していることはカー
0055 ネル開発に必要です。低レベルのアーキテクチャ開発をするのでなければ、
0056 (どんなアーキテクチャでも)アセンブリ(訳注: 言語)は必要ありません。以下
0057 の本は、C 言語の十分な知識や何年もの経験に取って代わるものではありませ
0058 んが、少なくともリファレンスとしては良い本です。
0059
0060 - "The C Programming Language" by Kernighan and Ritchie [Prentice Hall]
0061 - 『プログラミング言語C第2版』(B.W. カーニハン/D.M. リッチー著 石田晴久訳) [共立出版]
0062 - "Practical C Programming" by Steve Oualline [O'Reilly]
0063 - 『C実践プログラミング第3版』(Steve Oualline著 望月康司監訳 谷口功訳) [オライリージャパン]
0064 - "C: A Reference Manual" by Harbison and Steele [Prentice Hall]
0065 - 『新・詳説 C 言語 H&S リファレンス』 (サミュエル P ハービソン/ガイ L スティール共著 斉藤 信男監訳)[ソフトバンク]
0066
0067 カーネルは GNU C と GNU ツールチェインを使って書かれています。カーネル
0068 は ISO C89 仕様に準拠して書く一方で、標準には無い言語拡張を多く使って
0069 います。カーネルは標準 C ライブラリに依存しない、C 言語非依存環境です。
0070 そのため、C の標準の中で使えないものもあります。特に任意の long long
0071 の除算や浮動小数点は使えません。カーネルがツールチェインや C 言語拡張
0072 に置いている前提がどうなっているのかわかりにくいことが時々あり、また、
0073 残念なことに決定的なリファレンスは存在しません。情報を得るには、gcc の
0074 info ページ( info gcc )を見てください。
0075
0076 あなたは既存の開発コミュニティと一緒に作業する方法を学ぼうとしているこ
0077 とに思い出してください。そのコミュニティは、コーディング、スタイル、開
0078 発手順について高度な標準を持つ、多様な人の集まりです。地理的に分散した
0079 大規模なチームに対してもっともうまくいくとわかったことをベースにしなが
0080 ら、これらの標準は長い時間をかけて築かれてきました。これらはきちんと文
0081 書化されていますから、事前にこれらの標準について事前にできるだけたくさ
0082 ん学んでください。また皆があなたやあなたの会社のやり方に合わせてくれる
0083 と思わないでください。
0084
0085 法的問題
0086 --------
0087
0088 Linux カーネルのソースコードは GPL ライセンスの下でリリースされていま
0089 す。ライセンスの詳細については、ソースツリーのメインディレクトリに存在
0090 する、COPYING のファイルを見てください。もしライセンスについてさらに質
0091 問があれば、Linux Kernel メーリングリストに質問するのではなく、どうぞ
0092 法律家に相談してください。メーリングリストの人達は法律家ではなく、法的
0093 問題については彼らの声明はあてにするべきではありません。
0094
0095 GPL に関する共通の質問や回答については、以下を参照してください-
0096
0097 https://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html
0098
0099 ドキュメント
0100 ------------
0101
0102 Linux カーネルソースツリーは幅広い範囲のドキュメントを含んでおり、それ
0103 らはカーネルコミュニティと会話する方法を学ぶのに非常に貴重なものです。
0104 新しい機能がカーネルに追加される場合、その機能の使い方について説明した
0105 新しいドキュメントファイルも追加することを勧めます。
0106 カーネルの変更が、カーネルがユーザ空間に公開しているインターフェイスの
0107 変更を引き起こす場合、その変更を説明するマニュアルページのパッチや情報
0108 をマニュアルページのメンテナ mtk.manpages@gmail.com に送り、CC を
0109 linux-api@vger.kernel.org に送ることを勧めます。
0110
0111 以下はカーネルソースツリーに含まれている読んでおくべきファイルの一覧で
0112 す-
0113
0114 README
0115 このファイルは Linuxカーネルの簡単な背景とカーネルを設定(訳注
0116 configure )し、生成(訳注 build )するために必要なことは何かが書かれ
0117 ています。 カーネルに関して初めての人はここからスタートすると良い
0118 でしょう。
0119
0120 :ref:`Documentation/process/changes.rst <changes>`
0121 このファイルはカーネルをうまく生成(訳注 build )し、走らせるのに最
0122 小限のレベルで必要な数々のソフトウェアパッケージの一覧を示してい
0123 ます。
0124
0125 :ref:`Documentation/process/coding-style.rst <codingstyle>`
0126 これは Linux カーネルのコーディングスタイルと背景にある理由を記述
0127 しています。全ての新しいコードはこのドキュメントにあるガイドライン
0128 に従っていることを期待されています。大部分のメンテナはこれらのルー
0129 ルに従っているものだけを受け付け、多くの人は正しいスタイルのコード
0130 だけをレビューします。
0131
0132 :ref:`Documentation/process/submitting-patches.rst <codingstyle>`
0133 このファイルには、どうやってうまくパッチを作って投稿するかにつ
0134 いて非常に詳しく書かれており、以下を含みます (これだけに限らない
0135 けれども)
0136
0137 - Email に含むこと
0138 - Email の形式
0139 - だれに送るか
0140
0141 これらのルールに従えばうまくいくことを保証することではありません
0142 が (すべてのパッチは内容とスタイルについて精査を受けるので)、
0143 ルールに従わなければ間違いなくうまくいかないでしょう。
0144
0145 この他にパッチを作る方法についてのよくできた記述は-
0146
0147 "The Perfect Patch"
0148 http://www.ozlabs.org/~akpm/stuff/tpp.txt
0149 "Linux kernel patch submission format"
0150 https://web.archive.org/web/20180829112450/http://linux.yyz.us/patch-format.html
0151
0152 :ref:`Documentation/process/stable-api-nonsense.rst <stable_api_nonsense>`
0153 このファイルはカーネルの中に不変の API を持たないことにした意識的
0154 な決断の背景にある理由について書かれています。以下のようなことを含
0155 んでいます-
0156
0157 - サブシステムとの間に層を作ること(コンパチビリティのため?)
0158 - オペレーティングシステム間のドライバの移植性
0159 - カーネルソースツリーの素早い変更を遅らせる(もしくは素早い変更を妨げる)
0160
0161 このドキュメントは Linux 開発の思想を理解するのに非常に重要です。
0162 そして、他のOSでの開発者が Linux に移る時にとても重要です。
0163
0164 :ref:`Documentation/admin-guide/security-bugs.rst <securitybugs>`
0165 もし Linux カーネルでセキュリティ問題を発見したように思ったら、こ
0166 のドキュメントのステップに従ってカーネル開発者に連絡し、問題解決を
0167 支援してください。
0168
0169 :ref:`Documentation/process/management-style.rst <managementstyle>`
0170 このドキュメントは Linux カーネルのメンテナ達がどう行動するか、
0171 彼らの手法の背景にある共有されている精神について記述しています。こ
0172 れはカーネル開発の初心者なら(もしくは、単に興味があるだけの人でも)
0173 重要です。なぜならこのドキュメントは、カーネルメンテナ達の独特な
0174 行動についての多くの誤解や混乱を解消するからです。
0175
0176 :ref:`Documentation/process/stable-kernel-rules.rst <stable_kernel_rules>`
0177 このファイルはどのように stable カーネルのリリースが行われるかのルー
0178 ルが記述されています。そしてこれらのリリースの中のどこかで変更を取
0179 り入れてもらいたい場合に何をすれば良いかが示されています。
0180
0181 :Ref:`Documentation/process/kernel-docs.rst <kernel_docs>`
0182 カーネル開発に付随する外部ドキュメントのリストです。もしあなたが探
0183 しているものがカーネル内のドキュメントでみつからなかった場合、この
0184 リストをあたってみてください。
0185
0186 :ref:`Documentation/process/applying-patches.rst <applying_patches>`
0187 パッチとはなにか、パッチをどうやって様々なカーネルの開発ブランチに
0188 適用するのかについて正確に記述した良い入門書です。
0189
0190 カーネルはソースコードそのものや、このファイルのようなリストラクチャー
0191 ドテキストマークアップ(ReST)から自動的に生成可能な多数のドキュメントを
0192 もっています。これにはカーネル内APIの完全な記述や、正しくロックをかけ
0193 るための規則などが含まれます。
0194
0195 これら全てのドキュメントを PDF や HTML で生成するには以下を実行します - ::
0196
0197 make pdfdocs
0198 make htmldocs
0199
0200 それぞれメインカーネルのソースディレクトリから実行します。
0201
0202 ReSTマークアップを使ったドキュメントは Documentation/outputに生成され
0203 ます。Latex とePub 形式で生成するには - ::
0204
0205 make latexdocs
0206 make epubdocs
0207
0208 カーネル開発者になるには
0209 ------------------------
0210
0211 もしあなたが、Linux カーネル開発について何も知らないのならば、
0212 KernelNewbies プロジェクトを見るべきです
0213
0214 https://kernelnewbies.org
0215
0216 このサイトには役に立つメーリングリストがあり、基本的なカーネル開発に関
0217 するほとんどどんな種類の質問もできます (既に回答されているようなことを
0218 聞く前にまずはアーカイブを調べてください)。またここには、リアルタイム
0219 で質問を聞くことができる IRC チャネルや、Linuxカーネルの開発に関して学
0220 ぶのに便利なたくさんの役に立つドキュメントがあります。
0221
0222 Web サイトには、コードの構成、サブシステム、現在存在するプロジェクト
0223 (ツリーにあるもの無いものの両方)の基本的な管理情報があります。ここには、
0224 また、カーネルのコンパイルのやり方やパッチの当て方などの間接的な基本情
0225 報も記述されています。
0226
0227 あなたがどこからスタートして良いかわからないが、Linux カーネル開発コミュ
0228 ニティに参加して何かすることをさがしているのであれば、Linux kernel
0229 Janitor's プロジェクトにいけば良いでしょう -
0230
0231 https://kernelnewbies.org/KernelJanitors
0232
0233 ここはそのようなスタートをするのにうってつけの場所です。ここには、
0234 Linux カーネルソースツリーの中に含まれる、きれいにし、修正しなければな
0235 らない、単純な問題のリストが記述されています。このプロジェクトに関わる
0236 開発者と一緒に作業することで、あなたのパッチを Linuxカーネルツリーに入
0237 れるための基礎を学ぶことができ、そしてもしあなたがまだアイディアを持っ
0238 ていない場合には、次にやる仕事の方向性が見えてくるかもしれません。
0239
0240 もしあなたが、すでにひとまとまりコードを書いていて、カーネルツリーに入
0241 れたいと思っていたり、それに関する適切な支援を求めたい場合、カーネルメ
0242 ンターズプロジェクトはそのような皆さんを助けるためにできました。ここに
0243 はメーリングリストがあり、以下から参照できます -
0244
0245 https://selenic.com/mailman/listinfo/kernel-mentors
0246
0247 実際に Linux カーネルのコードについて修正を加える前に、どうやってその
0248 コードが動作するのかを理解することが必要です。そのためには、特別なツー
0249 ルの助けを借りてでも、それを直接よく読むことが最良の方法です(ほとんど
0250 のトリッキーな部分は十分にコメントしてありますから)。そういうツールで
0251 特におすすめなのは、Linux クロスリファレンスプロジェクトです。これは、
0252 自己参照方式で、索引がついた web 形式で、ソースコードを参照することが
0253 できます。この最新の素晴しいカーネルコードのリポジトリは以下で見つかり
0254 ます -
0255
0256 https://elixir.bootlin.com/
0257
0258 開発プロセス
0259 ------------
0260
0261 Linux カーネルの開発プロセスは現在幾つかの異なるメインカーネル「ブラン
0262 チ」と多数のサブシステム毎のカーネルブランチから構成されます。これらの
0263 ブランチとは -
0264
0265 - Linus のメインラインツリー
0266 - メジャー番号をまたぐ数本の安定版ツリー
0267 - サブシステム毎のカーネルツリー
0268 - 統合テストのための linux-next カーネルツリー
0269
0270 メインラインツリー
0271 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
0272
0273 メインラインツリーは Linus Torvalds によってメンテナンスされ、
0274 https://kernel.org のリポジトリに存在します。
0275 この開発プロセスは以下のとおり -
0276
0277 - 新しいカーネルがリリースされた直後に、2週間の特別期間が設けられ、
0278 この期間中に、メンテナ達は Linus に大きな差分を送ることができます。
0279 このような差分は通常 linux-next カーネルに数週間含まれてきたパッチです。
0280 大きな変更は git(カーネルのソース管理ツール、詳細は
0281 http://git-scm.com/ 参照) を使って送るのが好ましいやり方ですが、パッ
0282 チファイルの形式のまま送るのでも十分です。
0283 - 2週間後、-rc1 カーネルがリリースされ、この後にはカーネル全体の安定
0284 性に影響をあたえるような新機能は含まない類のパッチしか取り込むこと
0285 はできません。新しいドライバ(もしくはファイルシステム)のパッチは
0286 -rc1 の後で受け付けられることもあることを覚えておいてください。な
0287 ぜなら、変更が独立していて、追加されたコードの外の領域に影響を与え
0288 ない限り、退行のリスクは無いからです。-rc1 がリリースされた後、
0289 Linus へパッチを送付するのに git を使うこともできますが、パッチは
0290 レビューのために、パブリックなメーリングリストへも同時に送る必要が
0291 あります。
0292 - 新しい -rc は Linus が、最新の git ツリーがテスト目的であれば十分
0293 に安定した状態にあると判断したときにリリースされます。目標は毎週新
0294 しい -rc カーネルをリリースすることです。
0295 - このプロセスはカーネルが 「準備ができた」と考えられるまで継続しま
0296 す。このプロセスはだいたい 6週間継続します。
0297
0298 Andrew Morton が Linux-kernel メーリングリストにカーネルリリースについ
0299 て書いたことをここで言っておくことは価値があります -
0300
0301 *「カーネルがいつリリースされるかは誰も知りません。なぜなら、
0302 これは現実に認識されたバグの状況によりリリースされるのであり、
0303 前もって決められた計画によってリリースされるものではないから
0304 です。」*
0305
0306 メジャー番号をまたぐ数本の安定版ツリー
0307 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
0308
0309 バージョン番号が3つの数字に分かれているカーネルは -stable カーネルです。
0310 これには最初の2つのバージョン番号の数字に対応した、
0311 メインラインリリースで見つかったセキュリティ問題や
0312 重大な後戻りに対する比較的小さい重要な修正が含まれます。
0313
0314 これは、開発/実験的バージョンのテストに協力することに興味が無く、最新
0315 の安定したカーネルを使いたいユーザに推奨するブランチです。
0316
0317 安定版ツリーは"stable" チーム <stable@vger.kernel.org> でメンテされており、
0318 必要に応じてリリースされます。通常のリリース期間は 2週間毎ですが、差
0319 し迫った問題がなければもう少し長くなることもあります。セキュリティ関
0320 連の問題の場合はこれに対してだいたいの場合、すぐにリリースがされます。
0321
0322 カーネルツリーに入っている、
0323 Documentation/process/stable-kernel-rules.rst ファイルにはどのような種
0324 類の変更が -stable ツリーに受け入れ可能か、またリリースプロセスがどう
0325 動くかが記述されています。
0326
0327 サブシステム毎のカーネルツリー
0328 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
0329
0330 それぞれのカーネルサブシステムのメンテナ達は --- そして多くのカーネル
0331 サブシステムの開発者達も --- 各自の最新の開発状況をソースリポジトリに
0332 公開しています。そのため、自分とは異なる領域のカーネルで何が起きている
0333 かを他の人が見られるようになっています。開発が早く進んでいる領域では、
0334 開発者は自身の投稿がどのサブシステムカーネルツリーを元にしているか質問
0335 されるので、その投稿とすでに進行中の他の作業との衝突が避けられます。
0336
0337 大部分のこれらのリポジトリは git ツリーです。しかしその他の SCM や
0338 quilt シリーズとして公開されているパッチキューも使われています。これら
0339 のサブシステムリポジトリのアドレスは MAINTAINERS ファイルにリストされ
0340 ています。これらの多くは https://git.kernel.org/ で参照することができま
0341 す。
0342
0343 提案されたパッチがこのようなサブシステムツリーにコミットされる前に、メー
0344 リングリストで事前にレビューにかけられます(以下の対応するセクションを
0345 参照)。いくつかのカーネルサブシステムでは、このレビューは patchworkと
0346 いうツールによって追跡されます。Patchwork は web インターフェイスによっ
0347 てパッチ投稿の表示、パッチへのコメント付けや改訂などができ、そしてメン
0348 テナはパッチに対して、レビュー中、受付済み、拒否というようなマークをつ
0349 けることができます。大部分のこれらの patchwork のサイトは
0350 https://patchwork.kernel.org/ でリストされています。
0351
0352 統合テストのための linux-next カーネルツリー
0353 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
0354
0355 サブシステムツリーの更新内容がメインラインツリーにマージされる
0356 前に、それらは統合テストされる必要があります。この目的のため、実質的に
0357 全サブシステムツリーからほぼ毎日プルされてできる特別なテスト用のリポジ
0358 トリが存在します-
0359
0360 https://git.kernel.org/?p=linux/kernel/git/next/linux-next.git
0361
0362 このやり方によって、linux-next は次のマージ機会でどんなものがメイン
0363 ラインにマージされるか、おおまかな展望を提供します。
0364 linux-next の実行テストを行う冒険好きなテスターは大いに歓迎されます。
0365
0366 バグレポート
0367 -------------
0368
0369 https://bugzilla.kernel.org は Linux カーネル開発者がカーネルのバグを追跡する
0370 場所です。ユーザは見つけたバグの全てをこのツールで報告すべきです。どう
0371 kernel bugzilla を使うかの詳細は、以下を参照してください -
0372
0373 https://bugzilla.kernel.org/page.cgi?id=faq.html
0374
0375 メインカーネルソースディレクトリにあるファイル
0376 admin-guide/reporting-bugs.rstはカーネルバグらしいものについてどうレポー
0377 トするかの良いテンプレートであり、問題の追跡を助けるためにカーネル開発
0378 者にとってどんな情報が必要なのかの詳細が書かれています。
0379
0380 バグレポートの管理
0381 -------------------
0382
0383 あなたのハッキングのスキルを訓練する最高の方法のひとつに、他人がレポー
0384 トしたバグを修正することがあります。あなたがカーネルをより安定化させる
0385 こに寄与するということだけでなく、あなたは 現実の問題を修正することを
0386 学び、自分のスキルも強化でき、また他の開発者があなたの存在に気がつきま
0387 す。バグを修正することは、多くの開発者の中から自分が功績をあげる最善の
0388 道です、なぜなら多くの人は他人のバグの修正に時間を浪費することを好まな
0389 いからです。
0390
0391 すでにレポートされたバグのために仕事をするためには、
0392 https://bugzilla.kernel.org に行ってください。もし今後のバグレポートに
0393 ついてアドバイスを受けたいのであれば、bugme-new メーリングリスト(新し
0394 いバグレポートだけがここにメールされる) または bugme-janitor メーリン
0395 グリスト(bugzilla の変更毎にここにメールされる)を購読できます。
0396
0397 https://lists.linux-foundation.org/mailman/listinfo/bugme-new
0398
0399 https://lists.linux-foundation.org/mailman/listinfo/bugme-janitors
0400
0401 メーリングリスト
0402 ----------------
0403
0404 上のいくつかのドキュメントで述べていますが、コアカーネル開発者の大部分
0405 は Linux kernel メーリングリストに参加しています。このリストの登録/脱
0406 退の方法については以下を参照してください-
0407
0408 http://vger.kernel.org/vger-lists.html#linux-kernel
0409
0410 このメーリングリストのアーカイブは web 上の多数の場所に存在します。こ
0411 れらのアーカイブを探すにはサーチエンジンを使いましょう。例えば-
0412
0413 http://dir.gmane.org/gmane.linux.kernel
0414
0415 リストに投稿する前にすでにその話題がアーカイブに存在するかどうかを検索
0416 することを是非やってください。多数の事がすでに詳細に渡って議論されてお
0417 り、アーカイブにのみ記録されています。
0418
0419 大部分のカーネルサブシステムも自分の個別の開発を実施するメーリングリス
0420 トを持っています。個々のグループがどんなリストを持っているかは、
0421 MAINTAINERS ファイルにリストがありますので参照してください。
0422
0423 多くのリストは kernel.org でホストされています。これらの情報は以下にあ
0424 ります -
0425
0426 http://vger.kernel.org/vger-lists.html
0427
0428 メーリングリストを使う場合、良い行動習慣に従うようにしましょう。少し安っ
0429 ぽいが、以下の URL は上のリスト(や他のリスト)で会話する場合のシンプル
0430 なガイドラインを示しています -
0431
0432 http://www.albion.com/netiquette/
0433
0434 もし複数の人があなたのメールに返事をした場合、CC: で受ける人のリストは
0435 だいぶ多くなるでしょう。正当な理由がない限り、CC: リストから誰かを削除
0436 をしないように、また、メーリングリストのアドレスだけにリプライすること
0437 のないようにしましょう。1つは送信者から、もう1つはリストからのように、
0438 メールを2回受けることになってもそれに慣れ、しゃれたメールヘッダーを追
0439 加してこの状態を変えようとしないように。人々はそのようなことは好みませ
0440 ん。
0441
0442 今までのメールでのやりとりとその間のあなたの発言はそのまま残し、
0443 "John Kernelhacker wrote ...:" の行をあなたのリプライの先頭行にして、
0444 メールの先頭でなく、各引用行の間にあなたの言いたいことを追加するべきで
0445 す。
0446
0447 もしパッチをメールに付ける場合は、
0448 Documentation/process/submitting-patches.rst に提示されているように、そ
0449 れは プレーンな可読テキストにすることを忘れないようにしましょう。カー
0450 ネル開発者は 添付や圧縮したパッチを扱いたがりません。彼らはあなたのパッ
0451 チの行毎にコメントを入れたいので、そうするしかありません。あなたのメー
0452 ルプログラムが空白やタブを圧縮しないように確認しましょう。最初の良いテ
0453 ストとしては、自分にメールを送ってみて、そのパッチを自分で当ててみるこ
0454 とです。もしそれがうまく行かないなら、あなたのメールプログラムを直して
0455 もらうか、正しく動くように変えるべきです。
0456
0457 何をおいても、他の購読者に対する敬意を表すことを忘れないでください。
0458
0459 コミュニティと共に働くこと
0460 --------------------------
0461
0462 カーネルコミュニティのゴールは可能なかぎり最高のカーネルを提供すること
0463 です。あなたがパッチを受け入れてもらうために投稿した場合、それは、技術
0464 的メリットだけがレビューされます。その際、あなたは何を予想すべきでしょ
0465 うか?
0466
0467 - 批判
0468 - コメント
0469 - 変更の要求
0470 - パッチの正当性の証明要求
0471 - 沈黙
0472
0473 思い出してください、これはあなたのパッチをカーネルに入れる話です。あな
0474 たは、あなたのパッチに対する批判とコメントを受け入れるべきで、それらを
0475 技術的レベルで評価して、パッチを再作成するか、なぜそれらの変更をすべき
0476 でないかを明確で簡潔な理由の説明を提供してください。もし、あなたのパッ
0477 チに何も反応がない場合、たまにはメールの山に埋もれて見逃され、あなたの
0478 投稿が忘れられてしまうこともあるので、数日待って再度投稿してください。
0479
0480 あなたがやるべきでないことは?
0481
0482 - 質問なしにあなたのパッチが受け入れられると想像すること
0483 - 守りに入ること
0484 - コメントを無視すること
0485 - 要求された変更を何もしないでパッチを出し直すこと
0486
0487 可能な限り最高の技術的解決を求めているコミュニティでは、パッチがどのく
0488 らい有益なのかについては常に異なる意見があります。あなたは協調的である
0489 べきですし、また、あなたのアイディアをカーネルに対してうまく合わせるよ
0490 うにすることが望まれています。もしくは、最低限あなたのアイディアがそれ
0491 だけの価値があるとすすんで証明するようにしなければなりません。
0492 正しい解決に向かって進もうという意志がある限り、間違うことがあっても許
0493 容されることを忘れないでください。
0494
0495 あなたの最初のパッチに単に 1ダースもの修正を求めるリストの返答になるこ
0496 とも普通のことです。これはあなたのパッチが受け入れられないということで
0497 は **ありません**、そしてあなた自身に反対することを意味するのでも **あ
0498 りません**。単に自分のパッチに対して指摘された問題を全て修正して再送す
0499 れば良いのです。
0500
0501
0502 カーネルコミュニティと企業組織のちがい
0503 -----------------------------------------------------------------
0504
0505 カーネルコミュニティは大部分の伝統的な会社の開発環境とは異ったやり方で
0506 動いています。以下は問題を避けるためにできると良いことのリストです。
0507
0508 あなたの提案する変更について言うときのうまい言い方 -
0509
0510 - "これは複数の問題を解決します"
0511 - "これは2000行のコードを削除します"
0512 - "以下のパッチは、私が言おうとしていることを説明するものです"
0513 - "私はこれを5つの異なるアーキテクチャでテストしたのですが..."
0514 - "以下は一連の小さなパッチ群ですが..."
0515 - "これは典型的なマシンでの性能を向上させます..."
0516
0517 やめた方が良い悪い言い方 -
0518
0519 - "このやり方で AIX/ptx/Solaris ではできたので、できるはずだ..."
0520 - "私はこれを20年もの間やってきた、だから..."
0521 - "これは私の会社が金儲けをするために必要だ"
0522 - "これは我々のエンタープライズ向け商品ラインのためである"
0523 - "これは私が自分のアイディアを記述した、1000ページの設計資料である"
0524 - "私はこれについて、6ケ月作業している..."
0525 - "以下は ... に関する5000行のパッチです"
0526 - "私は現在のぐちゃぐちゃを全部書き直した、それが以下です..."
0527 - "私は〆切がある、そのためこのパッチは今すぐ適用される必要がある"
0528
0529 カーネルコミュニティが大部分の伝統的なソフトウェアエンジニアリングの労
0530 働環境と異なるもう一つの点は、やりとりに顔を合わせないということです。
0531 email と irc を第一のコミュニケーションの形とする一つの利点は、性別や
0532 民族の差別がないことです。Linux カーネルの職場環境は女性や少数民族を受
0533 容します。なぜなら、email アドレスによってのみあなたが認識されるからで
0534 す。
0535 国際的な側面からも活動領域を均等にするようにします。なぜならば、あなた
0536 は人の名前で性別を想像できないからです。ある男性が アンドレアという名
0537 前で、女性の名前は パット かもしれません (訳注 Andrea は米国では女性、
0538 それ以外(欧州など)では男性名として使われることが多い。同様に、Pat は
0539 Patricia (主に女性名)や Patrick (主に男性名)の略称)。
0540 Linux カーネルの活動をして、意見を表明したことがある大部分の女性は、前
0541 向きな経験をもっています。
0542
0543 言葉の壁は英語が得意でない一部の人には問題になります。メーリングリスト
0544 の中で、きちんとアイディアを交換するには、相当うまく英語を操れる必要が
0545 あることもあります。そのため、自分のメールを送る前に英語で意味が通じて
0546 いるかをチェックすることをお薦めします。
0547
0548 変更を分割する
0549 --------------
0550
0551 Linux カーネルコミュニティは、一度に大量のコードの塊を喜んで受容するこ
0552 とはありません。変更は正確に説明される必要があり、議論され、小さい、個
0553 別の部分に分割する必要があります。これはこれまで多くの会社がやり慣れて
0554 きたことと全く正反対のことです。あなたのプロポーザルは、開発プロセスのと
0555 ても早い段階から紹介されるべきです。そうすれば あなたは自分のやってい
0556 ることにフィードバックを得られます。これは、コミュニティからみれば、あ
0557 なたが彼らと一緒にやっているように感じられ、単にあなたの提案する機能の
0558 ゴミ捨て場として使っているのではない、と感じられるでしょう。
0559 しかし、一度に 50 もの email をメーリングリストに送りつけるようなことは
0560 やってはいけません、あなたのパッチ群はいつもどんな時でもそれよりは小さ
0561 くなければなりません。
0562
0563 パッチを分割する理由は以下 -
0564
0565 1) 小さいパッチはあなたのパッチが適用される見込みを大きくします、カー
0566 ネルの人達はパッチが正しいかどうかを確認する時間や労力をかけないか
0567 らです。5行のパッチはメンテナがたった1秒見るだけで適用できます。
0568 しかし、500行のパッチは、正しいことをレビューするのに数時間かかるか
0569 もしれません(時間はパッチのサイズなどにより指数関数に比例してかかり
0570 ます)
0571
0572 小さいパッチは何かあったときにデバッグもとても簡単になります。パッ
0573 チを1個1個取り除くのは、とても大きなパッチを当てた後に(かつ、何かお
0574 かしくなった後で)解剖するのに比べればとても簡単です。
0575
0576 2) 小さいパッチを送るだけでなく、送るまえに、書き直して、シンプルにす
0577 る(もしくは、単に順番を変えるだけでも)ことも、とても重要です。
0578
0579 以下はカーネル開発者の Al Viro のたとえ話です -
0580
0581 *"生徒の数学の宿題を採点する先生のことを考えてみてください、
0582 先生は生徒が解に到達するまでの試行錯誤を見たいとは思わないでし
0583 ょう。先生は簡潔な最高の解を見たいのです。良い生徒はこれを知っ
0584 ており、そして最終解の前の中間作業を提出することは決してないの
0585 です*
0586
0587 *カーネル開発でもこれは同じです。メンテナ達とレビューア達は、
0588 問題を解決する解の背後になる思考プロセスを見たいとは思いません。
0589 彼らは単純であざやかな解決方法を見たいのです。"*
0590
0591 あざやかな解を説明するのと、コミュニティと共に仕事をし、未解決の仕事を
0592 議論することのバランスをキープするのは難しいかもしれません。ですから、
0593 開発プロセスの早期段階で改善のためのフィードバックをもらうようにするの
0594 も良いですが、変更点を小さい部分に分割して全体ではまだ完成していない仕
0595 事を(部分的に)取り込んでもらえるようにすることも良いことです。
0596
0597 また、でき上がっていないものや、"将来直す" ようなパッチを、本流に含め
0598 てもらうように送っても、それは受け付けられないことを理解してください。
0599
0600 あなたの変更を正当化する
0601 ------------------------
0602
0603 あなたのパッチを分割するのと同時に、なぜその変更を追加しなければならな
0604 いかを Linux コミュニティに知らせることはとても重要です。新機能は必要
0605 性と有用性で正当化されなければなりません。
0606
0607 あなたの変更を説明する
0608 ----------------------
0609
0610 あなたのパッチを送付する場合には、メールの中のテキストで何を言うかにつ
0611 いて、特別に注意を払ってください。この情報はパッチの ChangeLog に使わ
0612 れ、いつも皆がみられるように保管されます。これは次のような項目を含め、
0613 パッチを完全に記述するべきです -
0614
0615 - なぜ変更が必要か
0616 - パッチ全体の設計アプローチ
0617 - 実装の詳細
0618 - テスト結果
0619
0620 これについて全てがどのようにあるべきかについての詳細は、以下のドキュメ
0621 ントの ChangeLog セクションを見てください -
0622
0623 "The Perfect Patch"
0624 http://www.ozlabs.org/~akpm/stuff/tpp.txt
0625
0626 これらはどれも、実行することが時にはとても困難です。これらの例を完璧に
0627 実施するには数年かかるかもしれません。これは継続的な改善のプロセスであ
0628 り、多くの忍耐と決意を必要とするものです。でも諦めないで、実現は可能で
0629 す。多数の人がすでにできていますし、彼らも最初はあなたと同じところから
0630 スタートしたのですから。
0631
0632
0633
0634
0635 ----------
0636
0637 Paolo Ciarrocchi に感謝、彼は彼の書いた "Development Process"
0638 (https://lwn.net/Articles/94386/) セクションをこのテキストの原型にする
0639 ことを許可してくれました。Rundy Dunlap と Gerrit Huizenga はメーリング
0640 リストでやるべきこととやってはいけないことのリストを提供してくれました。
0641 以下の人々のレビュー、コメント、貢献に感謝。
0642 Pat Mochel, Hanna Linder, Randy Dunlap, Kay Sievers,
0643 Vojtech Pavlik, Jan Kara, Josh Boyer, Kees Cook, Andrew Morton, Andi
0644 Kleen, Vadim Lobanov, Jesper Juhl, Adrian Bunk, Keri Harris, Frans Pop,
0645 David A. Wheeler, Junio Hamano, Michael Kerrisk, と Alex Shepard
0646 彼らの支援なしでは、このドキュメントはできなかったでしょう。
0647
0648
0649
0650 Maintainer: Greg Kroah-Hartman <greg@kroah.com>